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やまのおかげ屋ブログ

神戸牛(神戸ビーフ)の素牛である但馬牛のブランド「但馬玄」の生産者「上田畜産」美味しさの理由


やまのおかげ屋 特約生産者 上田畜産 但馬牛 神戸ビーフ

今回は弊社の特約生産者であり、但馬牛を生産されている兵庫県の上田畜産へ社員十数名で研修に行かせていただきました。私たちが扱っているお肉について実際に現地へ行って学び、その価値を自信を持ってしっかりお客様へ伝えていくための研修でした。


確立されたブランド「但馬玄(たじまぐろ)」の美味しさはどこから来るのか、そして上田畜産の牛の健康に対する意識の高さ、自信、誇りを知る非常にいい機会となりました。


上田畜産の名前は聞くけどどんなお肉?どうして他のお肉よりお値段が高いの?という疑問にお答えできるようしっかり学んでまいりましたのでお伝えします。





目次










1. 上田畜産「但馬玄(たじまぐろ)」について


やまのおかげ屋特約生産者上田畜産


1.1 独自ブランド「但馬玄(たじまぐろ)」


“自然の中で育てた健康的で上質な脂と赤身の深い風味はまるでマグロのようである、との事から但馬牛の中でも一線を画したものと位置付け「但馬玄(たじまぐろ)」と命名致しました。 「繁殖」「肥育」「販売」まで、全てを自社で行う一貫生産。全てにこだわった但馬が誇る上質な牛肉です。”



1.2 受賞歴

第7/9/10/11回全国和牛能力共進会

 優秀賞・特別賞・畜産功労者表彰など多数

 繁殖育成・肥育のW出場も果たす


第178回神戸肉技肉共励会

 名誉賞(農林水産省生産局長表彰)


兵庫県畜産共進会

 過去8回の名誉賞(農林水産大臣表彰)


香美町子牛品評会

 雌去勢牛3回連続のWチャンピオン




2. 香美町小代(かみちょうおじろ)の牛舎にて

説明中の上田畜産上田社長
研修に来た私たちへ説明中の上田社長

2.1 「但馬玄(たじまぐろ)」ができるまで


代表である上田伸也さんの牛好きが転じ、18歳から子牛を販売する「繁殖農家」としてたった一人で12頭の但馬牛から始めました。35歳から肥育にも着手し、5年をかけて繁殖から肥育までを一貫して行う、一貫生産へと体制を整えました。


2011年の冬、約400頭の飼育牛の中に疾病が入ってしまい危機的状況に陥りました。どうしようもなく呆然としていた中、翌年の春に、別の牛舎に居た18頭だけが非常に健康に育っていることに気づきます。

その牛たちは、天然素材で作られたオーガニックの餌を与えていた18頭だったのです。たまたま知り合った天然素材で餌を作る人と知り合ったことで一部の牛たちにだけ、試験的に与えていました。


このことをきっかけに、牛の健康にとっていかに「餌づくり」が重要なのかに気づきます。その年から試行錯誤を重ね、独自配合の餌へ移行し、牛たちに与え始めます。


2.2 牛の健康は、美味しさの証明

その2年後に独自配合のオーガニックの餌を与えて飼育した牛が初めて出荷されました。その肉を上田さん自ら試食し、肉質の美味しさとあっさりした脂を味わったことがさらなる成功体験となりました。実は、以前に自分が出荷していた神戸牛のA5のお肉を食べて、上田さん自身お腹を壊してしまったことがあったそう。その経験から、良い餌を食べて育った健康な牛は、食べる人の健康にも直結していると実感したそうです。



2.3 徹底的にこだわったオーガニックの餌

長年かけて改良を重ねた但馬玄用の独自配合の餌
長年かけて改良を重ねた独自配合の餌

牛の餌は粗飼料と濃厚飼料に分けられます。粗飼料は藁などの草が主原料で、人間で言う主食に当たります。上田畜産では現在、この無農薬の藁を滋賀や福井県の信頼のおける生産者から取り寄せています。


また、おかずとなる濃厚飼料は、大豆を中心とし、そば殻、きな粉、米糠、赤ふすま、とうもろこし(遺伝子組み換え出ない)の天然素材を使用しています。一般的な濃厚飼料はトウモロコシ、大麦の割合が7割といわれるところ、上田畜産での配合は3割となっています。

経済性を考えるとトウモロコシなどの穀物の割合は高くなります。穀物量が多い分、牛が早く肥りやすくなるからです。しかし、上田畜産がそうしないのは、牛の健康を優先してるからです。


上田畜産の独自配合の飼料は不飽和脂肪酸を多く含み、それが牛にとっても健康であるために大切な栄養素となっています。また、不飽和脂肪酸を多く含んだお肉は口溶けがよく、さっぱりした脂となります。融点が約12度と非常に低く、口に含んだ瞬間溶け出します。その口溶けの良さはマグロの大トロを彷彿させます。それが「但馬玄(たじまぐろ)」と命名されたゆえんです。


2.4 牛も喜ぶ循環型のエコシステム

「資産」でもある戻し堆肥が保管されている
牛舎のすぐそばには「資産」でもある戻し堆肥が保管されている

牛舎に入った時にまず感じたのは、牛たちの穏やかで落ち着いた表情でした。牛は大きな体とは対照的に、ストレスを感じやすくとても繊細な動物です。それにも関わらず十数名の知らない人間が訪問しても特に驚いている印象もありませんでした。


また、牛舎特有の臭いが少ないことも同時に感じました。それは戻し堆肥を利用した敷料(しきりょう)を牛舎に使っているからとのこと。戻し堆肥とは、牛たちの糞を発酵させてそれを敷料や畑の肥料として再利用される堆肥です。これにより、牛たちの体は優しい菌で満たされ、病気から守ってくれるそう。また、元々は自分たちの糞なので、精神的に安心する効果もあるそう。

自然由来の餌を食べ、健康的な糞を出し、それが自分たちを守ってくれる敷料として戻ってくるという、牛を第一優先にした循環型のエコシステムが完成されています。

この環境で飼育されるからこそ、牛たちはストレスも少なく気性も穏やかなのだと感じさせられます。


2.5 ブランド、格付けにはとらわれない


受賞歴を見るだけでも、評価や格付けのレベルが高いことがうかがえる「但馬玄」。しかし意外かもしれませんが、上田さんは高い基準を満たす「神戸牛(神戸ビーフ」やA5といった基準を気にされていません。もちろん、育てる但馬牛の多くがその基準をクリアしていますが、目指しているのはあくまで牛の健康と人が食べて健康なお肉。


但馬玄のオレイン酸含有量が実に65%を越えるといい、それは同時に融点が非常に低いということでもあります。

しかし、オレイン酸が多く融点の低い脂はと引き換えに格付けが低くなることも。融点が低いと、食肉処理から格付け審査までの間に脂が冷えきらず、サシがきれいに出てこないことがあるそう。そのため格付けの要素の一つである霜降りの数値BMSが低くなることもあるようです。


普通であれば、上位の格付けやブランド名がある方を生産者は重視しますが、それをしないのは、評価ではなく「確かな美味しさ」を追及しているから。こだわりと信念の強さが伝わります。



2.6 次世代生産者の育成

上田畜産の牛舎を案内してくれた20代の若手の従業員の方
牛舎を案内してくれた20代の若手の従業員の方

牛舎で働いてるスタッフ8名のうち7名が20代、1名が30代と若い世代が活躍しています。過去にもこの農場で働いていた若手が独立し、近くで農場を経営しています。


世界的にも人気の高まっている日本の和牛ですが、その需要とは反対に、和牛生産者は年々減少しています。この上田畜産では非常に若い世代が集まって働いていることに驚きました。


「ただ普通に働くことを目的として来るひとはここでは続かない」ここで働く方々は、きちんとした目的、ビジョンを持っているからこそ辛抱強く継続して働くことができ、上田畜産で知識やノウハウを習得し、経験し、巣立っていくのだそうです。




3. 朝来市和田山食肉センターでと畜見学

3.1 約3年間の努力はこの瞬間にかかっている

今回、屠畜を見学させてもらったのは4頭の但馬牛。


わたしたちが見慣れている鳥取和牛と比べて、やや小柄な但馬牛4頭はと殺の前に綺麗に洗浄されます。

生産者が育てた牛がお客様へ届けられる過程の一つに「と畜」と言う仕事があります。

「と畜(と殺)」は4K(きつい、危険、汚い、臭い)と言われ、あまり世間では語られないとても厳しい仕事です。


牛に恐怖を与えず、素早く、安全にと殺する。この一瞬に、生産者の愛情と手間をかけた3年間(上田畜産では)がかかっているとも言えます。これに失敗するとこの3年間が水の泡となってしまう可能性があるというプレッシャーと緊張感の中、日々この過酷な仕事をされています。


と殺が終わると、流れ作業でいわゆる「枝肉」と言われる状態までにされます。魚や野菜と同じく、生き物は鮮度がいのち。それは牛肉も同じです。いかに手際よく、素早く処理するかにかかっています。処理する際に刃物で肉に余分な傷がついてしまうとそれだけで商品価値が下がってしまいます。生産者さんが飼育にかけた数年の年月を無駄にできないというプロ意識と集中力が必要とされる大切な役割をになっています。



3.2 ホルモン(内臓)の処理は育ててきた自分たちの手で目で確認

見学させていただいた食肉センターでは、ホルモン(内臓)は育てた自分たちで洗浄し、処理します。代表の上田さんも必ず行う作業です。3年間かけて育てた牛のホルモンの状態、色、臭いを確認することで、その育て方が正しかったのかどうか答え合わせができるからです。育てた牛の全てを少しも無駄にしないように、丁寧に丁寧に手作業で切り分け、洗浄されます。処理されたホルモンはすぐに車で加工場へ運ばれます。その後さらに幾度の洗浄を経て、お客様へ新鮮なホルモンとして提供されます。



4. 城崎(きのさき)の直売精肉店「牛匠 上田」訪問

城崎温泉街にある但馬玄販売店 「牛匠 上田]
城崎温泉街にある但馬玄販売店 「牛匠 上田]

4.1 お肉が一番の営業マン

城崎温泉街に直営精肉店を開いたのは、こだわり抜いて生産した自らの牛肉を「但馬牛」「神戸ビーフ」でひとくくりにされたくなかったから。開店からしばらくは、苦しい時期も経験しました。ある時、たまたま焼肉店を運営している人が来店し、精肉「但馬玄」を購入。その美味しさに惚れ込み、すぐにお取引が始まりました。そこから他の飲食店へも紹介してもらい、評判と口コミで広がっていきました。


現在、出荷の70%が東京の飲食店へ卸販売されています。とことん牛の健康と美味しさを追及した「但馬玄」。生産者による研究と改良が重ねられた結果の確かな「美味しさ」は、そのお肉そのものが一番優れた営業マンなのだと上田さんは言います。


4.2 お客様の声を聞き日々研究・改良

確立されたブランドとなった「但馬玄(たじまぐろ」。それでも上田畜産のその品質への追及と改善は怠りません。

出荷された牛の肉の状態を自ら食べ、味わって確認する。お客様からの率直な意見も大事な改良の判断材料として受け入れます。「今回は少し赤身が強かった」と聞けば、餌の調合を変えます。生の「声」「味」からその都度調整し、さらなる美味しさの高みへ挑戦しています。



5. 但馬牛の飼育システムが世界農業遺産に認定!

上田畜産で肥育される但馬牛
上田畜産で肥育される但馬牛

5.1 日本農業遺産認定に継ぎ、世界農業遺産にも

2023年7月6日、研修に訪問した当日、上田畜産の所在する兵庫県美方郡(香美町、新温泉町)の「但馬牛飼育システム」が世界農業遺産に認定されたニュース(https://www.yomiuri.co.jp/local/hyogo/news/20230707-OYTNT50032/)が届きました。

但馬牛は神戸ビーフや松坂牛の素牛(もとうし)として知られ、この地域で古くから生産されています。棚田の草などを餌とし、ふんを堆肥として活用するなど持続可能な地域資源の循環利用を行うのと同時に、日本初の血統登録「牛籍簿」を整備、100年以上に渡って血統管理に取り組んできたことが世界から遺産として認められた結果です。


5.2 天然記念物級!?但馬牛を飼育する難しさ

名牛「田尻号」の功績を讃える顕彰碑。黒毛和牛の99.9%はこの田尻号の血統が入っていると言われる
名牛「田尻号」の功績を讃える顕彰碑。黒毛和牛の99.9%はこの田尻号の血統が入っていると言われる。

但馬牛は江戸時代から現在に至るまで、但馬地域の但馬牛の中だけで交配を重ね、他県の遺伝子を入れなかったことから、これを閉鎖育種と呼んでいます。いわゆる「純血種」です。

純血であるがゆえに、病気になりやすく大量生産に向きません。かつては海外品種との混血により絶滅の危機にあった但馬牛は、生産者をはじめとする関係機関の徹底した血統管理と飼育管理の努力により現在まで繁栄しました。



6. 研修を終えて


上田畜産但馬牛母子
仲睦まじい母子の但馬牛

母牛を妊娠させて子牛を生ませる「繁殖」と、子牛を成牛に育てる「肥育」を分業するのが一般的とされる中で、繁殖、肥育、さらには加工・販売までも行う完成された一貫生産体制が構築されていました。それぞれに高い技術が必要とされますし、その施設や設備も必要なためここまで築き上げるまでに、計り知れない努力と忍耐が必要とされたことがうかがえます。


「この餌の配合はもうこれで完璧ですか?」との問いに「いえ、完成ではないですよ。肉となった状態を見て、味わって、再び配合の調整をします。それの繰り返しですね。」との答えが。上田畜産の牛の健康、美味しさへの追求は終わりがないです。


上田さんの「牛が好きで好きでたまらない」という牛への愛情と、現状の成果に満足せず、常に改良改善を繰り返す探究心と辛抱強さがここまでの「但馬玄」生産体制を作り上げたのだと感じました。


牧場から帰路に就き、但馬牛の飼育システムが世界農業遺産に認定されたとのニュースが飛び込んできました。生産者によって日々行われる但馬牛の繁殖、肥育、そして健康維持は、100年以上行われて続けてきた「血統管理」、牛の糞から作られる戻し堆肥等の循環型の持続可能な資源の利用。まさに世界に誇る資産として育まれている光景をその場で体験できたことは非常に貴重で贅沢な経験となりました。


和牛専門店のやまのおかげ屋が自信を持ってお届けする、上田畜産の但馬牛。その舌触りのまろやかさ、あっさりした質の良い脂、そして芳醇な味わいを一度ぜひ味わってみてください。



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