日本から初めて鳥取和牛がヨーロッパへ輸出されるきっかけとなったのは
欧州の中でも最も美しい都市と言われるプラハ、チェコ共和国へ、なぜ鳥取和牛が輸出されることになったのでしょうか。
昨年2022年11月にチェコ共和国のAmbiente社の一行が鳥取県にある鳥取和牛を生産する「鳥飼畜産」への訪問が全ての始まりとなりました。
訪問の数ヶ月前に連絡があり、「わざわざ遠くのチェコから訪問?なぜ?何で知ったんだろう?」と当初は私たちは疑問だらけでした。
11月当日、鳥飼畜産の農場で待ち合わせを予定し、「本当にいらっしゃるのかな…」という不安を他所に、レンタカーを借りて慣れない道を運転してきたチェコからの8名が軽快な挨拶とともにいらっしゃいました。
聞いたところ、読売新聞に取材していただいた時の記事の英語版を見つけて「ぜひ鳥取の鳥飼畜産に行きたい!」となったそうです。
このAmbienteという会社は、プラハで約30のレストラン、カフェを経営しています。社長のトマーシュ・カルピシェクが1995年に小さなレストランを開業したところから28年でここまでの規模に拡大してきました。運営する約30社の中にはミシュランを獲得したレストランもあります。
Ambienteが大切にしていることは、料理に使われる食材がどこで、誰に、どのように作られているのかを実際に足を運んで、シェフ達が自らの目で確かめること。良いものであれば、例えそれが国外であっても確かめに行き、そして生産者と信頼関係を築き上げる。そしてそれをただの料理としてではなく、美味しいという「経験」に変えることを消費者に提供するということです。
その信念はやまのおかげ屋が大切にしていることとシナジーが感じられます。
私たちも生産者に敬意を払い、適正な価格で販売し農家さんに還元する。生産者も消費者も幸せになれるように、現在の流通を変えていきたいという思いがあります。
今回はそのシナジーが運んできたご縁のように感じます。
社長のトマーシュとその一行も、この鳥取への訪問で鳥取和牛を仕入れる予定ではなかったとのこと。
しかし、鳥飼畜産での繁殖と肥育を一つの農場で行う「一貫生産」、牛に対する愛情やその姿勢、そして何より「美味しさ」が輸出をその場で決めた理由とのことでした。
通常で考えれば、遠いチェコまでの輸送費や輸入関税などのコストを考えると、日本国内でさえ高価な和牛を輸入しようと考えるのは躊躇うことだと思います。
生産者の努力と姿勢、鳥取和牛の美味しさというものが国境を越えて認められた瞬間でした。
鳥取和牛の美味しさは洗練されたヨーロッパの肉食文化に認められるのか
さて、2023年5月に鳥飼畜産からチェコのAmbiente社のAmasoという精肉卸の会社へ鳥取和牛を輸出しました。
そのスケジュールに合わせて、やまのおかげ屋からも数名が、現地へ向かいました。鳥取和牛について、またその調理法や提供方法について伝達してきました。
その様子はをAmbiente所属のジャーナリストから取材を受け、記事にしていただきましたので、日本語訳で引用してご紹介します。
(引用元一部抜粋:https://www.jidloaradost.ambi.cz/clanky/privezli-jsme-wagyu-z-tottori-co-se-ambiente-uci-od-japoncu/)
著者: Blanka Datinská
写真:Adam Mráček
欧州チェコ共和国〜鳥取和牛輸出紀行〜滞在2日目
「鳥取からの輸入は、日本の和牛を試す機会であるだけでなく、チェコのガストロノミーレストラン業界(ガストロのミーとは食事と文化の関係を考察することで、ガストロノミーレストランとは、上質な素材やテクニックが求められ、高いクオリティーの料理を提供するレストランのこと)でも需要があるのかを試す良い機会となる。なぜ日本からわざわざ肉を輸入しなければならないのかと、最初は私にとってナンセンスに思えましたが、すぐに、これが私たちのやり方だと気づきました。チェコの肉へのアプローチにおいて私たちにインスピレーションを与えてくれた特定の農場で生産された完璧な日本産和牛の味を人々に提供することができる良い機会です。」とNaše Masoのゼネラルマネージャーであるラデク・チャロウプカ氏は説明しました。
Nase Maso精肉店では、肉の盛り付けや切り方、包装やショーケースの温度について話し合いました。鳥取和牛はこちらのお店ではスライスで販売されますが、乾燥を防ぐために 1 ~ 2 °C に温度を下げ、薄いフィルムでお肉を包装する必要があるとのこと。また、チェコと日本の食文化を比較することができたこととして、チェコのお店では普通に300グラムのステーキが販売されているが、日本人の習慣や感覚としてはその量は多い印象がある。日本でも和牛は一般的に高価なもので、お祝いの席などで登場することが多く、量よりはその質が重要視される傾向にあるとのことでした。
チェコの包丁、日本の包丁
「どこぞの日本和牛とは違う。鳥取県産の鳥飼さんの和牛で、そこが大きな違いです。」とAmbienteの有名なシェフであり肉屋でもあるファンダ・クシャナ氏は言った。そしてプラハのナロドニ通りにあるのUM(ここでレストランのメニュー開発や、スタッフの研修、ワークショップが行われる)でワークショップが始まり、Ambienteの肉屋とシェフが正午頃に集まりました。その後、鳥飼氏が登壇し、肉の部位ごとにさまざまな調整を行うデモンストレーションを行いました。日本からの出荷が遅れたため、チェコのクロントラード産和牛と宮崎産和牛を代わりに使用し、味や食感を比較しました。
今回鳥取和牛の調理例としてプレゼンテーションしたのは、ステーキ、焼肉、焼きすき、しゃぶしゃぶ、牛焼き、牛スシ、低温調理の8つ。
まずは肉のブロックをスライス――鳥飼さんは厚さにこだわった。なぜなら厚さは加熱時の脂肪の変化に影響を与え、したがって料理全体の味に影響を与えます。そして、1.5~2mmに切った肉をフライパンで焼き、タレ(すき焼き用)をかけて黄身と一緒に食べる「焼きすき」の調理法を試した。
その間に、スープ(Goodlok社 のビーフガルム(牛すじを醗酵させて作られたエキスを水で溶かしたもの)をしゃぶしゃぶ用に加熱し、厚さ 0.8 ~ 1.5 mm のスライスした肉を熱いスープに数秒間浸します。
さらに、シェフ達にとって馴染みのある焼き鳥テクニックですが、牛肉にも適用できます。和牛肉を挿した串を焼き、醤油、砂糖、みりん、酒、味噌、生姜、などの調味料で構成されるタレに浸します。
包丁でカットした焼肉用の鳥取和牛も炭火で焼きました。硬い部分を丁寧にカットして筋繊維を崩し、表面のスジを取り除いたりすることで、肉の柔らかさを存分に引き出すことができます。
最も長い時間をかけて調理されたサーロインのステーキは、脂身の消化を良くするために、60℃で40分間、低温調理されました。日本ではこの後、スライスして焼くことで風味が増すとのことでした。
寿司の場合、肉は1秒処理で十分なんです
牛寿司のシャリに使用したのは、鳥飼畜産で出た肥料を使って作られた畑で収穫されたお米でした。そこにスライスしたお肉を載せ、ガスバーナーで炙ります。味付けは、こちらも日本から持ち込んだ生わさびとわさびオイル、そして醤油をお好みで。
上等な部位は牛寿司に使用されるが、それ以外の部位、例えばネックやウデなどはミンチにしてハンバーガーにしたり、ワインで煮込んだり、カツとして揚げたりするとのことです。
興味深いことに、Ambienteのシェフは即興で鳥取和牛のスライス10枚をまとめてパン粉をつけて、それを揚げました。「出来た!一度やってみたかったんだ(ミルフィーユ牛カツを)」
一通りのプレゼンテーションを終え、鳥飼氏はシェフたちの間に座り、今回のワークショップの締めくくりとして、改めて鳥取和牛の血統や特徴、そして美味しさについて説明した。そして彼の手に握られていた、今回輸入された、Ambienteのシェフ達や肉屋達が扱うことになる鳥取和牛の血統書が、シェフたちへ手渡された。
最終日、Ambienteのレストラン、Kantýněでのディナーでは、地球の端と端を結び、アンビエンテの人々の夢を実現させたという体験を称えるものでした。チェコのキッチンに一流の肉を、という彼らのビジョンに一歩近づいたのです。
(引用元一部抜粋:https://www.jidloaradost.ambi.cz/clanky/privezli-jsme-wagyu-z-tottori-co-se-ambiente-uci-od-japoncu/)
チェコにも和牛がいる?
チェコ和牛との出会い
今回の現地視察の一貫として、Ambiente社が特約契約を結んでいる畜産農家さんのピーター・クロントラードさんの農場へもお邪魔させていただきました。
プラハ郊外の農場まで車で片道2時間。農場に到着する直前には放牧されたチェコの牛(チェスキーČeský)が青々とした大地で牧草を食べている様子が見えました。
ピーターさんの農場は小規模の家族経営ですが、レストラン、ショップ、また宿泊施設も併設されています。牛舎では約120頭の牛を飼育していますが、その半分以上が和牛です。
そもそもピーターさんの農場で和牛の肥育を始めたのは2016年でした。アメリカから輸入した和牛の受精卵を元に和牛の肥育と品種改良が始まりました。改善や研究を重ね、現在では輸入しなくとも、自ら受精卵を作り和牛を生産することに成功しています。現在では88%以上の和牛の血統が入った牛を安定的に生産しています。
Ambienteグループの肉の卸会社であるAmasoへ毎年12頭を納品しています。残りの肉は農場に併設されたレストランやショップで販売しています。
当初は、「和牛の冷凍受精卵を買い、それで育てれば霜降りの和牛が簡単に生まれて育つと信じていた。だけど、この和牛という血統には環境や餌や肥育に特別な世話が必要なのだと身をもって実感しました」とピーターさんは言っていました。その後、ヨーロッパの畜産農家を尋ねて研修し、繁殖と肥育方法を大幅に改善したそうです。
和牛の出来は50%が血統、残りの50%が環境やえさと一般的に言われています。ただ良い血統の子牛を購入して育てただけでは良い和牛にはなりません。
ピーターさんの農場で繁殖肥育された和牛は出荷月齢30〜36ヶ月と、日本の和牛の一般的な出荷月齢28〜30ヶ月に比べると長期肥育に分類されます。
長期肥育は、その期間が長い分餌代や管理コストが上がるという反面、お肉の味が濃くなる、いわゆる生体熟成と言われる面も兼ね備えています。
実際に併設されたレストランでピーターさんの和牛を味わせてもらいました。和牛といえば霜降りのイメージですが、チェコの和牛は赤身がしっかりしていて濃厚な味わいで、赤身好きにはたまらない味でした。
一貫生産という共通点
ピーターさんのチェコ和牛の生産は繁殖から肥育そして販売までも行う、完全な一貫生産です。
昨年の11月にAmbiente社の一行が鳥取和牛を生産する鳥飼畜産へ視察に来て、輸出をその場で決めました。その決断には、美味しさはもちろんですが、鳥飼畜産も一貫生産を採用し、小規模ながらも、品種改良努力や牛に対する真剣な姿勢がピーターの農場と重なったのかもしれません。
ピーターさんの作るチェコ和牛は高い和牛の血統支配率がありますが、日本の代表的な和牛と比べると「まだまだ改良の余地がある。ぜひ鳥飼畜産で研修させて欲しい」とピーターさんの息子夫婦のヤナさんとミハエルさんが言っていました。
いずれそれが実現した際には、また現場からお伝えする予定です。
視察を終えて
「輸入した鳥飼畜産の鳥取和牛もうほとんど売り切ってしまったよ。」
先方から連絡が来たのは、輸出から3週間も経たないころでした。現地での視察中も気がかりだったのが、「本当に高価な鳥取和牛が売れるのだろうか…」ということでした。
というのも、街中で売られているチェコ牛のお肉と比べると今回販売されている鳥取和牛のお値段は10倍以上も高くなります。
Ambiente社の会社のマーケティングやブランディング、そしてシェフの方々の腕の素晴らしさは良く理解していましたが、ここまで早く売り切れるとは嬉しい予想外の報告でした。
「今まで食べた中で一番美味しい!」と現地のお客様からの評価もとても良いようでほっとしました。
これからも、日本のみならず世界のより多くの人々に鳥取和牛の美味しさに気付いてもらえるよう、継続的に鳥取和牛の輸出についてやまのおかげ屋として関わっていきたいと思っています。
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